ネット上で次のような質問をよく見かけます。
「直感と直観は何が違うのですか?」
「直感と直観をどう使い分ければいいのですか?」
ユング心理学のテキストではドイツ語、英語ともにintuitionと表記する語を日本語では「直観」と訳すのが一般的です。
だから「直感と直観の違い」というのは、あくまでも日本語上の問題であって、ユング心理学とは関係ありません。
しかしユング心理学で使う「直観」とそれ以外の「直感」の違いがわかれば、ユング心理学で言う「直観タイプ」についての理解がさらに深まるでしょう。
「直感」はハイパーな感覚機能である
まず最初に、ユング心理学では使わない「直感」から考えてみましょう。
私たちの身体には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という、いわゆる五感が備わっています。
これら五感を重視して生活している人たちはユング心理学で言うところの感覚タイプです。
ところでこの「感覚」の「感」の文字ですが、これは五感の「感」を指しています。
ということは「直感」もどうやら「五感」と関係がありそうです。
つまり視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の延長線上に「直感」がある、と考えればいいでしょう。
そこで例として触覚について考えてみましょう。
私たちは鉄のカタマリを触った時、「硬いな」と感じますよね。
この場合、手で触って初めて「硬い」と感じたわけです。
でも実際には、私たちは「鉄のようなモノ」を見ただけで(触らなくても)「硬そうだな」と感じます。
これが直感です。
直感にはいろんなパターンがあります
優秀な医者が診察室に入ってきた患者の顔を一瞬見ただけで「病状がだいぶん進んでいそうだ」と感じるようなプロフェッショナルな直感。
スーパーで働いている万引きGメンが怪しげな動きをする客をマークして、万引き犯を見つけ出す職人的な直感。
他にも、いわゆる「女のカン」などと呼ばれる直感もありますよね。
つまり本来なら実際に見たり、聞いたり、触って確認しなければ得られない情報だけど、「長年の経験をもとに何となくわかる」というのが直感の正体ではないでしょうか。
この直感も時々、まるでフライングしたかのように大ハズレすることがあります。
しかし訓練や経験の積み重ねによって直感の精度を高めていくことは可能です。
直感を鍛える場合、直感そのものを直接鍛えるのは難しいです。
でも、たとえば観察力(視覚)を磨いてゆけば、「シャーロック・ホームズのように殺人現場を一瞬見ただけで犯人の性格や職業が直感的にわかる」というレベルにまで引き上げられるかも知れません。
すでに述べたように、直感は五感の延長線上にあると考えられます。
ということは、直感は「五感の進化形」あるいは「高感度な五感」だと言えるでしょう。
また、五感は感覚機能のツールであることから、私は直感の正体は「ハイパーな感覚機能」だと理解しています。
「直観」はボーッとしている時に出てくる
ユングは『タイプ論』の外向的直観の説明のところで次のように述べています。
外向的直観は無意識的に何かを知覚する作用であり、おもに外界の対象に向けられている。
これは無意識的なプロセスなので、その本質を理解するのは難しい。
また、内向的直観の説明のところでは次のように説明しています。
内向的直観は自分の内側にある無意識的な対象に向けられている。
普通、人間は考える時も、学ぶ時も、そこに意識が働いていますよね。
これは五感を働かせる場合も同じです。
例えば何かの匂いをかぐ時、「意識」的に鼻を近づけたりします。
また、美しい風景を見ている時、その風景を見ながら「きれいな風景だなあ」と意識しています。
このように人は寝ている時以外はたいがい意識を働かせ続けています。
ところが直観というものは「無意識の時にこそ働くものだ」とユングは言っているのです。
ここでもう一度、先に出てきた「直感」について振り返ってみましょう。
直感の方は「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」の延長線上にあると述べました。
これらの五感はいずれも意識的なプロセスです。
したがって直感もやはり意識の産物なのだから、ある程度は自分の意識で運用できることになります。
ところが直観の方はというと、無意識的なプロセスなので、「意識して使う」ことができません。
その代わり、「直観を使おう」なんて思ってもいない時にどこからともなくアイデアのようなものがポーンと湧いてくる。
それが直観だというわけです。
ところで直観には誤解されやすい点が1つあります。
しばしば「直観は思考と関係がある」と言われますが、これは違います。
思考というのは
「AだからB、BだからC、CだからD・・・」
というふうに推論を進めていきます。
しかしここに直観が作用すると
「AだからB、BだからC・・・、あっ、答えはZだ!」
というふうに、いきなり次元をワープしてしまうように結論が飛び出してくるのです。
こういう場合、一応、本人としては「思考しているつもり」なのです。
しかし正確に言えば、「確かに最初は思考していたけれど、途中で直観が降って湧いた」という状況なのです。
考え過ぎている時、直観はうまく働いてくれません。
あえて思考を裏切るように働くのが直観だからです。
それゆえ、ボーッとしながらご飯を食べている時などに限って、昨日さんざん考えてもわからなかった問題の答えが突然ヒラメクのです。
これが直観というものです。
直感は集中時に冴え、直観は休息時に冴える
ここまで読んでいただいて、直感の方が割と現実に密着していると思いませんか?
なぜなら私たちは日常の中で五感をフル活用しながら生きていますが、その五感をさらに感度よくしたのが直感だからです。
ゆえに直感というのは実生活や自分の仕事に役立てやすい。
ところが、いつも「ここ一番」という時に限ってまったく動いてくれないのに、どうでもいい時に働いてしまうのが直観です。
だから直観タイプの人というのは、せっかく何らかの才能を持っていたとしても、それらを「意識的」に使えない、という弱みを持っていると言えます。
直感の鋭い人は常日頃から現実としっかり向かい合って生きているように見えます。
ところが直観の豊かな人、つまり直観タイプの人はいつも何だかボーッとしているように見えます。
これは直観タイプの人は無意識的に過ごしている時間が長いからです。
ところで、先ほど「直感」は経験や訓練で鍛えられると述べましたが、実は「直観」の方もある程度なら高めることは可能です。
例えば、ある特定の場所に行くと直観が高まるとか、昼間より夜の方が直観が冴える、といったことがあります。
また、アルファ波を引き出すような音源を聞きながらだと直観が冴えるという話もあります。
総じて言えば、直観はリラックスした状態でこそ発揮されやすい能力です。
なぜならリラックスというのは意識過剰な状態で過ごしている日常から自分を解放し、頭をボーッとさせることだからです。
そういう状態の時は直観が働きやすいですよね。
だから「直観タイプの人はあまりがんばり過ぎない方がいい」のかも知れません。