世の中には感情をまじえず、何事も完全に割り切って考えられる人がいます。
いわば超越的な思考タイプの人ですが、こういう人は普通の思考タイプと何が違うのでしょうか。
これをユング心理学でいう「分化と未分化」の概念から解説したいと思います。
幼少期、4つの性格機能は癒着しあって自由に動けない
幼少期、人間の4つの性格機能(思考、感情、感覚、直観)は無意識の中で混沌状態のまま眠っています。
そこからいち早く目覚め、意識の領域に上がってきた機能が優越機能になります。
優越機能の出来上がり方については劣等機能講座のこちらの記事でも解説しています。
ところで優越機能が目立ってくる以前の「4つの性格機能」は互いに癒着しあっています。
そのイメージを表したのが下の図です。
たとえるなら4色の粘土を1個のオダンゴにしたような状態。
こういうふうに4つの機能が癒着しあっていると、それぞれの機能を独立して働かせるのが困難です。
ところが物心がつく年頃になってくると、4つの性格機能の癒着ぐあいに変化が出てきます。
まずは1つの性格機能がいち早くオダンゴ状態から抜け出てくるのです。
その抜け出てきたのが仮に思考機能だった場合の状況を表したのが下の図です。
この図からイメージできるように、思考機能は癒着からだいぶん抜け出してきてます。
これは思考機能が発達しつつある状態です。
癒着がさらに解けてくると、次の図のようになります。
この状態になると思考は他の3つの機能からほとんど独立しています。
わずかに直観とつながっているだけですね。
このように1つの機能が癒着から抜け出し、独立性が高まってくると、人はその機能を自由に操れるようになります。
最も分化している性格機能が優越機能となる
実を言えば劣等機能講座の中でもすでに同じようなことを説明しています。
でも、その説明の中で私は
1つの性格機能が洗練されてくる
という表現を使いました。
この「洗練されてくる」という表現は「わかりやすさ」を重視して私が作ったものです。
この「洗練」に相当するものとして、ユングはタイプ論の中で分化(ぶんか)という言葉を使っています。
よって、今後はこの「分化」という言葉を使うことにします。
一方、「性格機能がまだ癒着しあっている状態」のことを未分化と呼びます。
この言葉もいっしょに覚えておいてください。
ここでもう一度、先ほどの図をご覧ください。
1つだけ飛び抜けて分化しているのが思考機能です。
このように、その人の性格の中で最も分化が進んでいる機能が優越機能です。
そしてこの図では優越機能の思考に引っぱられるようにして直観機能も分化がだいぶん進んでいます。
このように優越機能の次に分化している機能が補助機能です。
次に残りの感覚機能と感情機能を見てみましょう。
ともに未分化と言えますが、癒着面の大きさという点から言えば感情の方が未分化ですよね。
こういう最も未分化な性格機能(この場合なら感情機能)が劣等機能です。
性格機能の分化と未分化にも多くのパターンがある
性格機能の分化のしかたについて、他のパターンを見てみましょう。
先ほど思考機能が飛び抜けて分化していた図を見ていただきましたが、その思考機能がさらに分化したのが次の図。
このタイプは思考機能が完全独立しています。
だからこの人は何かを考える時、純粋に頭脳だけを働かすことができ、感情や直観など他の性格機能の影響を受けることがありません。
何ごとも完全に割り切って考えることができる人です。
こういう人がまさにキレッキレの思考タイプということになります。
次は優越機能とともに補助機能もかなり分化しているタイプ。
下の図の場合、この人は優越機能の思考とともに、補助機能の直観も割とうまく働かせることができます。
実はこれが最も一般的な性格タイプの構造かも知れません。
しかし1つだけやっかいなことがあります。
それはどちらが優越機能でどちらが補助機能なのか、自分でもわかりづらいということです。
たとえば上の図で言うなら、このタイプの人は自分が思考タイプなのか直観タイプなのか、判然としないのです。
こういう人仕事を選ぶ時、間違って補助機能向きの職種を選んでしまうことがよくあります。
そうなると本来の優越機能の方は宝の持ち腐れになってしまうでしょう。
自分の優越機能を特定する方法については次の記事を参考にしてください。
最後にもう1つ、別のタイプをあげておきます。
それは優越機能以外の機能は割と「どんぐりの背比べ」というタイプ。
ちょうど下の図のような感じです。
この図の場合、劣等機能の感情が一番未分化なのはすぐわかります。
そして直観と感覚について見てみると、一見、分化が進んでいるように思われますが、いずれも感情との癒着面が大きすぎて、そこのところがまだまだ未分化です。
こういう場合、一応、直観と感覚の2つが補助機能となるのですが、能力的には「どんぐりの背比べ」で、さほどハイレベルではありません。
分化と未分化は性格の単純さと複雑さに関係する
今回は性格機能の分化と未分化について解説しました。
なぜこのことが大切かというと、人間の性格を理解する上でとても大切な視点だからです。
人はよく「あの人は性格が単純でいいよね」とか「あの人は性格が複雑で付き合いづらい」などと言います。
こうした「性格の単純さ、複雑さ」というのは今回述べた「分化・未分化」と非常に関係があるのです。
この関係性については次回の記事でまた詳しく解説します。
ユングの『タイプ論』(林道義 訳)をお持ちの方は第11章の「分化」の項目をご覧ください。
ただし私個人としては英語版の『Psychological Types』(H.G.Baynes訳)の第11章「differentiation」もあわせて読んでみると、内容がさらに理解しやすいかも知れません。