日本でユング心理学を広めた功労者と言えば、いずれも故人ですが河合隼雄さんと林道義さんの両氏がまず思い浮かびます。
今回はこの両氏の性格タイプを比較しつつ、ユング心理学の学び方についても考察してみたいと思います。
(あくまでも私見ですが・・・)
ユング心理学を語る人の性格タイプを知ること
ユング心理学の入門書の多くはまずユングその人の解説から始められています。
なぜなら「ユング心理学を理解するにはまずユングその人を理解しないとだめだ」という考えがあるからです。
そうであるならユング心理学の入門書を読む場合も「まず、その著者について理解しておいた方がいい」ということになります。
なぜならその著者のユング心理学についての理解や説明方法には、必ずその著者自身の性格タイプなどが影響しているはずだからです。
その学者がどういう角度からユング心理学を見ているか?
それをはっきりさせておかないと、私たちはその学者が自分流にとらえたユング心理学を鵜呑みにするしかありません。
人気者の河合隼雄さんはおそらく外向感情タイプ
河合隼雄さんと林道義さんは専門家の間では同じくらい有名です。
でも、世間的にはどうも河合隼雄さんの方がよく知られているような気がします。
だから初めてユング心理学を学ぼうとする人の多くは河合隼雄さんの本を手に取ることになります。
そして、その河合さんの本を読んだ時の反応はおそらく次の3パターンに分かれるはずです。
①わかりやすいし、素晴らしい本だ!
②難しくて挫折したけど本当は良書だろう…
③意味不明だ、他の本を探そう!
こういう違いが出てくるのは、おそらく読者の性格タイプの違いが原因だろうと私は考えています。
読者の性格タイプが河合さんと同傾向の場合には河合さんの本を「わかりやすい」とか「難しいけれど素晴らしい本だ」と感じるのでしょう。
逆にそうでない場合は「意味不明だ」と反発さえ感じるかも知れません。
では、その河合隼雄さんの性格タイプはどのようなものだったのでしょうか。
私の推理は以下の通りです。
優越機能は外向感情
したがって劣等機能は内向思考
補助機能は内向感覚
※優越機能と補助機能とで外向、内向が同じになるか逆になるかについてはユングは明言していませんが、私は両方ありえると考えています。
河合さんの著書を読んでいてこのように分析したわけですが、その根拠の一部を説明します。
まず言えることは、カウンセラーという職業柄もあってか河合さんは「共感の達人」だということです。
また他人と自分との間に境界線を引かず、どんな人でも受け入れるという姿勢を持っていらっしゃいます。
こういったところから河合さんは外向感情機能が優れていたことが推測できます。
また、河合さんはスイスのユング研究所で学んだ箱庭療法を日本に初めて紹介した人です。
箱庭療法とは盆栽のような小さな庭の模型を作りながら、自分で自分の心を整えていく、という療法です。
そもそも盆栽という日本の文化自体が内向感覚の領域です。
それにまっ先に目を付けたということは、河合さん自身、おそらく内向感覚が強かったからでしょう。
ついでに言えば河合さんはフルートが得意で、演奏会を開くほどの腕前だったそうです。
こういう楽器を演奏する才能も感覚機能と関係があります。
河合隼雄さんの本でユング心理学の入門書に位置づけられるのは次のような本です。
などなど・・・
これらの本を読んでいて私が感じることは「格調は高いが、説明の仕方に論理性がない」という点です。
こんなことを書くと河合さんのファンから「けしからんヤツだ!」と怒られそうですね。
思うに、河合さんの説明が論理的だと感じる読者はおそらく感情タイプです。
感情タイプの人は自分たちの説明が「非論理的だ」とは露ほども思っていないからです。
しかし思考タイプの人からすれば、感情タイプの人の説明の仕方は論理性より情緒性を重視しているように思えます。
感情タイプの人が一応論理的な文章を書こうとすると、その文章はある種の崇高性を帯びてくるように思います(キリスト教の聖書のように)。
しかし論理を厳密にたどっていこうとする思考タイプの人にはその文章の脈絡がよくわからないのです。
したがって先ほどの①②③の反応パターンのうち、①と②、つまり河合さんの本に好意的だった人はおそらく感情タイプ。
逆にはっきりと不満を感じた③は思考タイプの可能性が高いです。
ちなみに私、ナマケモノは優越機能が内向直観、補助機能が内向思考であるため、③のパターンです。
河合隼雄さんの性格は日本人にはウケがいい
日本人の間では外向タイプの人の方が高く評価されがちです。
外向タイプのことを「陽キャ」、内向タイプのことを「陰キャ」と誤って理解している人が多いですが、そうした人たちの心の中には「内向タイプはイケてない」という価値観があるように感じます。
また日本人は理屈より和を大切にする民族です。
つまり感情タイプを賞賛する傾向がある、ということ。
論理を通そうとする人は「頭でっかち」とか「屁理屈ばかり言うヤツ」と見なされます。
もう1つ、日本人は理想を語るより現実主義を重視する民族です。
つまり直観タイプより感覚タイプが幅をきかせている国だということです。
そう考えると、「外向、感情、感覚」の3点を満たした人は日本では評価されやすいと言えます。
日本で河合隼雄さんが大人気なのも、また、あちこちの組織から「会長になってください」、「所長に就任してください」などと引っぱりダコだったのも、さらには文化庁長官にまで抜擢されたのも、すべては日本人にはウケのよい「外向、感情、感覚」の三拍子が揃っていたからでしょう。
そして、その逆パターンが林道義さんだと思います。
自説を通す林道義さんはおそらく外向思考タイプ
林道義さんはこのサイトでも紹介しているユングの『タイプ論』を翻訳した人です。
それ以外にもユングの著作を多数翻訳していらっしゃいます。
また、初心者用として、次の3冊を書いておられます。
以上の本を読んだ印象から私は林道義さんの性格タイプを次のように推理しました。
優越機能は外向思考
したがって劣等機能は内向感情
補助機能は外向直観
林さんは子どもの頃から正義感がひときわ強い人でした。
大人になってからも正義を主張せずにはおられず、そのため周囲と衝突することも多かったそうです。
人の不正義には激怒することも多く、そのため奥さんから「あなたはいつも怒っている」とよく注意されていたようです。
また、間違っていることは「間違っている」と指摘せずにはいられない性格です。
よって、著書の中でも河合隼雄さんへの批判、また河合さんと同じく人気の高い秋山さと子さんへの批判を展開しておられます。
以上の点だけからも思考機能が強いことは確かですが、さらにもう1つの根拠があります。
それは林さんが『父性の復権』という本を書いておられることです。
「健全な父性」によって世の中の正義と秩序を回復するべきだ、という主旨の本ですが、こういう本を書くこと自体、外向思考の発想です。
直観機能が強いことについては林さんご自身がおっしゃっています。
林さんはソ連が崩壊する35年前からソ連崩壊を予言していたそうです。
また、囲碁が得意で囲碁関連の著書もあります。
囲碁というのは(私はやりませんが)相手の手筋を予想する能力が必要でしょう。
このように「カタチある未来」を予言したり、予想する能力は外向直観と関係があります。
では林さんの場合、外向思考と外向直観のいずれが優越機能だったのでしょうか?
これについては「劣等機能はどれだろうか?」と考えるとわかります。
もし思考が優越機能なら、劣等機能は感情となります。
直観が優越機能なら、劣等機能は感覚となります。
林さんの場合、感覚と感情のどちらが劣等機能っぽいか?
林さんの著作を読んだ時、感覚機能の分野で何か四苦八苦していた、という形跡は見当たりませんでした。
それよりも周囲とぶつかり合って悩み抜いたり、あるいは奥さんに指摘されるように怒りやすかったりと、とにかく自分の感情のコントロールに苦労しておられたように思います。
また、林さんは批判精神が高い割には、他人からおだてられるとまるで子どものように嬉しがったそうです(これはネットの情報から)。
しかもその感情の動きが周囲の人に丸見えだったそうです。
こういう点からわかることは、林さんの感情機能は自分の意識で十分にコントロールできるほど洗練されていなかったということです。
ユング的に表現すると「感情機能が幼稚でヤボ」。
(このヤボを林さんは「太古的」と訳していらっしゃいます)
したがって林さんの劣等機能は感情。
逆に優越機能は思考だったのだろうと推測しました。
性格タイプの解説は河合氏の方がおすすめ
最初に書いたように、ユング心理学を学ぼうとする人の多くはまず河合隼雄さんの本を手に取ります。
ところが「難しすぎてわからない」と感じる人も案外多いわけですね。
そういう人は林道義さんの前述の入門書を読んでみると、内容がスーッと頭に入ってくるかもしれません。
実は私自身がそうでした。
私は最初に河合隼雄さんの本から入ったのですが、何回読み返しても意味がわからず、投げ出してしまった本も何冊かあります。
その後で林道義さんの本を読んだら一気に「ああ、そういうことだったのか!」と視界が開けました。
「こんなことだったら最初からこっちを読んでおくべきだった」
と思い、今まで河合さんの本に執着し過ぎて時間を損していたと思ったくらいです。
ただ1点、私は性格タイプに関する説明に関しては河合隼雄さんの方がわかりやすいし、ユングの考えに合っていると思います。
林さんは上記の『心のしくみを探る(ユング心理学入門Ⅱ)』の中で性格タイプについて説明していらっしゃいます。
ところが内容的にどうも納得できないのです。
林さんはせっかくユングの『タイプ論』を翻訳しておきながら、その『タイプ論』とは違う解釈を上記の本で書いておられると思いました。
そもそも人間の性格というものは一筋縄では理解できません。
したがって常に物事の中に秩序を見出そうとする林さんにとって、「人の性格」という無秩序の世界は少々苦手な分野だったのではないか…と思いました。
一方、河合隼雄さんの『ユング心理学入門』の「第1章 タイプ」の解説は短いながら、内容は秀逸だと思います。
だから私は他の記事の中でもこの部分は推薦しています。
両氏の著作を読み比べることも勉強になる
結局、河合隼雄さんと林道義さんのどちらが優れているというわけではなく、性格タイプが正反対だということです。
だから両氏の本を読んでユング心理学を学びつつ、「書き手の性格タイプが異なると解説の仕方もこんなに変わるんだ」という見方をすればいいのです。
河合隼雄さんの熱烈なファンたちは林さんの本を読むと次のように思うかも知れません。
何もこんなところで河合先生の悪口を書かなくてもいいのに・・・。
よし、私はこれからも河合先生を信じて勉強していくぞ!
でも、これはやはり「好き、嫌い」でものを判断しがちな感情タイプの考え方です。
そうした気持ちの部分はちょっと横に置き、林道義さんの本を読んでみるとユング心理学をまた別の角度から理解できると思います。