劣等機能講座

むりに劣等機能を使っても不器用さが目立つだけ【ユング心理学】

 

今回はユング心理学の劣等機能講座の8回目です。

今までの記事で何度も述べてきたように、劣等機能とは自分の性格の中で最も「幼稚でヤボ」な側面です。

その劣等機能を意識的に上手に使いこなすことは可能でしょうか。

 

結論から言えば、それは「かなり難しい」ということになります。

その理由を詳しく説明したいと思います。

 

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劣等機能を便利に使いこなすのは難しい

 

「劣等機能」はユング心理学のタイプ論を理解する上でキーとなる概念です。

 

実は以前、私はこの劣等機能について深く考えていませんでした。

ところがある心理学者の本をたまたま読み、あらためて劣等機能の重要性を知ることになりました。

 

その心理学者とはこの講座の第1回目でご紹介した

マリー=ルイズ・フォン・フランツ
(Marie-Louise von Franz)

という人です。

 

マリーさんはドイツに生まれ、幼少の頃にユングの住むスイスに家族で引っ越してきました。

そしてまだ10代の頃に偶然ユングと出会い、以後、ユングの弟子として、またユングの共同研究者として、ユングが亡くなるまでの30年近くをユングのそばで過ごしました。

したがって彼女はユングの人柄や考え方を一番よく知っている人物だと言えるでしょう。

 

彼女の著作の中で私が繰り返し読んでいるのは『Lectures on Jung’s Typology(『ユングのタイプ論講義』; ジェームズ・ヒルマン共著)』におさめられているThe Inferior Function(劣等機能)です。

 

 

以前、私はMBTIの影響を受けていたことがあり、「人は自分の劣等機能を便利に使いこなすことができる」という誤った認識を持っていました。

ところが自分の人生を振りかえるたびに「いや、それは難しいのではないか・・・」と疑問に思っていました。

 

そんな時に読んだのが前述のマリーさんの本です。

この本を熟読し、私は自分の考えが当たっていたことを知りました。

 

それと同時に私自身、自分の劣等機能を克服しようとして失敗し続けてきた理由、さらに今後いかに生きるべきかについてのヒントも得ることができました。

その収穫を皆さんにもシェアしたいと思って書いているのが、まさにこの劣等機能講座です。

 

英語本を日本語で読む方法はこの記事の最後にまとめてあるよ!

 

 

劣等機能を意識的に使おうとすると何が起きるか?

 

話をもとに戻しましょう。

「自分の劣等機能を意識的に、上手に使えるかどうか」

この疑問に対しては次のように答えることができます。

 

「劣等機能と言えども、ある程度は意識的に使うことができる」

 

ただし、思考、感情、感覚、直観のうちのいずれが劣等機能であっても、それを意識的に使おうとすると、とたんに「ぎこちなさ」「不自然さ」が出てしまいます。

 

以下、それをタイプ別にわかりやすく描写してみました。

それぞれ特徴をつかみやすいように少々デフォルメして書いています。

 

ちょっと大げさに書いてあるので、心当たりがあっても気分を悪くしないで!

 

 

思考タイプが感情機能を意識的に使おうとした場合

 

たとえばよその家の葬式に出席する際、感情タイプなら遺族に会った瞬間、ごく自然にお悔やみの言葉が出てきます。

そころが思考タイプの場合、葬儀当日の朝からソワソワしながら「遺族にどんな言葉をかけようか」とさんざん悩みます。

 

そして結局、ネットで見つけた「お葬式の礼法一覧」に載っている決まり文句を使うのが最も無難だという結論に至ります。

 

そしてその礼法マニュアル通り、「このたびはご愁傷様でした」などの丸暗記した定型フレーズを遺族の前で「ぎこちなく」述べることになります。

まさにダイコン役者のセリフ棒読みという印象です。

 

また、好きな人に自分の気持ちを伝えるにはどうすればよいかとさんざん迷った末、バラの花束を贈るなどという、いかにも「古典的な方法」や「定型パターン」を使うのも思考タイプにはありがちです。

 

素直な感情を自然に表現するのが苦手なので、不自然なことをやってしまうんだね

 

感情タイプが思考機能を意識的に使おうとした場合

 

「あなたの気持ちを教えてください」と言われた場合、「私は何々の方が正しいと思います」と答えるのが思考タイプです。

いやいや、それは「気持ち」じゃなくて「意見」でしょ?とツッコミを入れたくなるところですね。

 

ところが逆に、「あなたの意見を教えてください」と言われているのに、「私は何々の方が好きです」と自分の「気持ち」を答えてしまうのが感情タイプです。

 

しかしそういう感情タイプだって、どうしても論理的な発言をしなければならないシチュエーションがあります。

そんな時、感情タイプは「何か使えそうなネタはないか」と少しだけ頭の中で考えます。

そして先日テレビでどこかの大学教授が言っていたことを思い出して「そのまま」しゃべったり、最近読んだ本に書いてあったことを思い出して「そのまま」口に出したりします。

 

そんな時、本人にはそれが他人の意見の受け売りだという自覚はまったくありません。

それどころか、今、自分の頭で考えついた意見だと思い込んでしゃべっています。

 

しかも他人の意見を無理やりツギハギしてしゃべっているため、ところどころに論理の破綻があるのだけれど、本人は気づいていません。

 

もしその場に思考タイプがいたら、「今時、そんな陳腐な意見は牛や馬でも言いそうだな・・・」と思いながら聞くことになるでしょう。

 

もちろん「自分の気持ちを伝える」ことは、それはそれで大切なことだよ

 

直観タイプが感覚機能を意識的に使おうとした場合

 

直観タイプにとって最大の鬼門は「実直に働いてお金を稼ぐ」ことです。

どうやれば稼げるのかわからない・・・そう思った直観タイプは「そうだ、自分に欠けているのは経済感覚だ!」と気づき、さっそくアマゾンでケインズ経済学の入門書をポチったりします。

 

「いやいや、お金を稼ぐって、そういうことじゃないでしょ!」とアドバイスしてあげたくなりますよね。

ところが何をするにもまず「大きな概念の理解」から始めなければ気がすまず、実体験は後回しにしてしまうのが直観タイプ。

そして頭の中では早くも大金持ちになった自分を想像して喜んでいるという状況です。

 

五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の性能について言えば、一般的に直観タイプは感覚タイプにはかないません。

たとえばテーブルの上に2つのワイングラスがあり、片方には超高級ワイン、もう片方にはスーパーで安売りされていたワインが入っているとします。

感覚タイプと直観タイプがそれらを飲み比べて、どちらが高級ワインかを当てるゲームをしたとしましょう。

 

この場合、当然のことながら感覚タイプは嗅覚、味覚、視覚といった肉体的感覚を使って正解を出そうとするでしょう。

ところが直観タイプは「どちらを飲んだ時に幸せを感じるか」「どちらを飲んだ時にピーンと来るか」などという意味不明な基準で選ぼうとします。

 

当然、このゲームは直観タイプの敗北に終わりますが、このゲームと似たような失敗を直観タイプは人生の中で幾度と繰り返すことになります。

つまり本人は感覚機能を使っているつもりでも、実際には直観機能を使っている。

しかも本人はそのことに気づいていないということが何度も起こるのです。

 

 

直観タイプにとって感覚の世界はまったく謎だ

 

感覚タイプが直観機能を意識的に使おうとした場合

 

感覚タイプが「自分の精神性を向上させよう」などと思って宗教に目覚めたりすると周囲にたいへん迷惑がかかることになります。

 

感覚タイプは直観力や想像力が欠落しているので、宗教のような「精神世界」を「心」で理解するのは不得意です。

ところがどういうわけか最も宗教心のなさそうな感覚タイプに限って宗教に興味を持つことが多いです。

 

その理由は(その感覚タイプ本人も気づいていないけれど)物質的努力だけではどうやら限界がありそうなので、「神サマ」とやらの助けを借り、もっと大きな欲望を叶えたいからでしょう。

 

こうした感覚タイプが宗教を始めたとしても、やはりその取り組み方はとことん物質的、感覚的です。

たとえば高価なツボを購入して床の間に飾っておけば救われると考える。

多額のお布施を納めれば神サマのブーメラン効果でさらに大金持ちになれると信じている。

あるいは滝行で肉体的刺激を味わうことで自分の宗教心をかき立てようとする。

また、信者を増やせば自分も救われると聞くと親族や友人たちを勧誘しまくってしまう。

 

簡単に言えば、感覚タイプの宗教心というのはすべて「カタチを伴わないと気がすまない」性質のもので、しかも現世利益という物質的な「ごほうび」が必要だったりします。

 

宗教に限らず、感覚タイプが直観タイプ的な世界にアプローチしようとしても、結局は物質的、肉体的フィルターを通す必要が出てくるため、直観機能はなかなか発動しません。

 

宗教がらみの事件でダマされやすいのは感覚タイプだろうね

 

 

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今回のまとめ

 

人は自分の劣等機能を意識して使おうと思えば使えなくはありません。

でも、上手にそれを使うことはできないので、結局は自分の優越機能に近づけたスタイルで使うことになります。

 

つまりどうにかして普段の自分の得意パターンに持ち込み、その場を乗り切ろうとするのです。

ただし周囲の目には「何だか見当はずれなことをやっているな」と見えている場合が多いでしょう。

 

 

さて、そこで皆さんは次のように考えるのではないでしょうか?

劣等機能を進化させて、せめて補助機能並みに、できれば優越機能レベルまで引き上げることはできないのだろうか?

 

劣等機能についてのあらゆる疑問はここに集約されます。

これについては次回の記事で説明するつもりです。

 

 

英語の本を日本語訳で読む方法

上に紹介したマリーさんの本は原書が英語で書かれていますが、これを日本語で読みたいという方がいらっしゃたら次のような方法があります。

① まず、上のリンクからマリー本を購入する。

② スマホで読みたいページの写真をキレイに撮る。
Kindle本なら画面をスクリーンショットすればいいかも。
(マリーさんが書いた部分はわずか90ページほどです)

③ その写真をPCに送る(メールなどを使うとよい)。

④ PC上にてGoogle ChromeからGoogleドライブを開く。

⑤ Googleドライブの左上にある「新規」をクリック→「ファイルのアップロード」をクリック→撮影した写真を選ぶ。

⑥ 撮影した写真がGoogleドライブ上に提示される→その写真上で右クリック→出てきたメニューの中から「アプリを開く」をクリック→Googleドキュメントを選択。

⑦ すると「Googleドキュメント」が出てきて、撮影した写真とともに自動生成されたテキストも現れます。

⑧ そのテキストをGoogle翻訳にコピペして和訳をします。

【注意】
スマホで撮った写真のサイズがあまりに大きすぎると失敗するので、適度に小さくしてからGoogleドライブで開いた方がいいでしょう。
なお、実際に本を購入する前に別のもので予行演習をやってみてください。

 

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