普通、自分の性格を考える時、誰もが自分の優越機能を知りたがります。
でも実際には優越機能より、自分の劣等機能を理解した方が「収穫が多い」ということをご存知ですか?
優越機能を考えるとは「自分の人生という舞台を観客席から眺める」ようなものです。
(だいたい想定どおりの光景が見えてくるだけです)
一方、劣等機能を考えるとは、「その舞台裏から自分の人生の謎に迫る」ようなものです。
(自分でも意外に感じることがたくさん見えてきます)
今回から『ナマケモノ心理学』では劣等機能講座をシリーズとしてスタートさせます。
劣等機能の解説に関してはおそらく世界一わかりやすい内容になると思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
なお、『ナマケモノ心理学』の劣等機能の解説はユング心理学における本来のタイプ論に準拠しています。
したがってMBTIとは見解が異なる部分がありますのでご了承ください。
ユング心理学のタイプ論の基本をおさらいしよう
「外向/内向」は興味・関心の方向を示す
ユング心理学では人間の性格を考える場合、「2つの(心理学的)態度」と「4つの機能」というものを考えます。
「2つの(心理学的)態度」とは外向と内向のことです。
心理学でいう外向、内向は「陽キャラ」、「陰キャラ」とはまったく別の概念なので注意してください。
また、性格が明るい、暗いというのとも違います。
簡単に説明すれば、外向、内向の違いは「興味、関心を外と内のどちらに向けるか?」の違いです。
考え方の基準を世間一般に合わせるか、それとも自分独自の基準に従うか・・・
外向タイプは常に「他の人たちは皆どう考えているか?」を気にして、できる限り周りの人に同調しようとします。
内向タイプは世間一般の考え方をそのまま自分の中に取り入れるのは苦手な人たちで、結局、自分の基準にしたがって行動します。
(内向、外向については後々の記事でまたあらためて触れる予定です)
思考・感情・感覚・直観は基本となる性格機能
4つの(性格)機能とは思考、感情、感覚、直観のことです。
4つの機能は次のような2組に分けられます。
思考←→感情
感覚←→直観
これを図にすると次のようになります。
この図のように、思考と感情、感覚と直観とはそれぞれ正反対の性質を持っていることになります。
一応、誰もがこの4つの機能を(程度の差はあれ)すべて持っています。
優越機能、劣等機能を考える場合、「外向・内向」、「思考・感情・感覚・直観」の「2×4」の組み合わせで考えるのですが、今回の記事では「4つの機能」だけを使って考えることにします。
成長とともに優越機能と劣等機能が明確になる
人間は無意識の世界から生まれてくる、といってもかまわないでしょう。
現にあなたが生まれたばかりの頃、自分に意識があったかどうかを考えてみてください。
赤ちゃん時代のあなたは、たぶん無意識状態だったはずです。
赤ちゃん時代のあなたにも思考、感情、感覚、直観の4つの機能はあったかも知れませんが、それらはいずれも無意識の沼にどっぷり浸かったままでした。
成長とともに4つの性格機能は徐々に「無意識の沼」から浮上し始め、「意識の空間」に昇り始めます。
ただし4つの機能がすべて完全に意識の空間に浮上するわけではありません。
人によって違いはありますが、少なくとも1つの性格機能は無意識の沼から浮上することはできません。
つまり最低でも1つの機能は生涯、無意識の領域にとどまったままとなるのです。
(上の図では感情機能が無意識の領域にとどまったままです)
この幼年時代に無意識の沼からまっ先に上昇してきた機能が優越機能となります。
一方、最後までついに意識の空間に浮上できなかった機能は劣等機能となります。
劣等機能の意識化レベルというのはほとんどゼロで、赤ちゃん時代から抜け出ていないということになります。
言い換えると、その人の性格の中で大人になってからも幼稚さの残る部分が劣等機能だと言えるでしょう。
(劣等機能の意味については今後の記事でさらに深掘りしていきます)
本人には自分の優越機能、劣等機能がわかりにくい
もう一度、最初の「4つの機能」の図をご覧ください。
もし思考が優越機能なら、その反対側にある感情が劣等機能となります。
つまり上の図において、向かい合う機能どうしが「優越機能-劣等機能」の関係になるということです。
思考が優越機能なのに感覚や直観が劣等機能になることは絶対にありません。
ところで、優越機能と劣等機能の違いは幼少期から少しずつはっきりしてきます。
それが「周囲の目」から見てもはっきりしてくるのは幼稚園に入るちょっと前くらい、いわゆる「ものごころが付き始める頃」からだと言われています。
たとえば幼稚園で、ある子供は見たこともない宇宙人の絵ばかりを描いている。
別の子供は教室の中に置いてある花か何かを描き写している。
この場合、前者は直観タイプの子供、後者は感覚タイプの子供です。
しかし実際のことを言えば、自分の優越機能や劣等機能というのは大人になってからも、なかなかわかりづらいものです。
(だからみんな性格テストを受けるんですよね)
しかし中には小学校時代にすでの自分の優越機能を得意分野というカタチで自覚していて、子供の頃からその方面の勉強を始めたり、人生の計画を練ったりする子供もいます。
そういう人は「努力のスタートラインが早い」ため、大人になってから大成功をおさめるケースが多いです。
一方、このシリーズの後の方の記事で詳しく述べますが、人によっては自分の劣等機能を優越機能だと思い込み、子供の頃から見当外れの努力を続けている、あるいは「させられている」人もいます。
こういう場合、言い方は悪いですが「人生を棒に振る」ことになりかねません。
自分の劣等機能を正しく知り、人生の方向を正しく修正することはとても大切なことです。
優越機能でも劣等機能でもない機能について
優越機能でも劣等機能でもない機能は補助機能となります。
先ほどイラストをもう一度見てください。
思考は優越機能、感情は劣等機能ですが、残りの感覚や直観は補助機能という位置づけになります。
ただし感覚と直観の両方が正しく補助機能として働いているかといえば、疑わしい部分があります。
補助機能の発達レベルは人によって様々です。
たとえば2つのうち片方だけが補助機能としてうまく稼働している。
あるいは両方とも限りなく劣等機能に近い、つまり優越機能だけが単独で発達しているという人もいて、こういう人はいわゆる「一芸の天才」タイプだと言えそうです。
ところで、
自分は感覚と直観のどちらが強いのかわからないんだけど…
という人がいます。
こういう場合、おそらくその人はもともとが思考タイプか感情タイプなのであって、感覚と直観は補助機能なのでしょう。
しかしいずれも「大差がない」レベルの発達度合いなので「どちらが強いかわからない」のだと考えられます。
この劣等機能講座はしばらく継続する予定ですので、ぜひとも定期的にチェックしてみてください。
【参考文献】
この劣等機能講座では主に次の書籍を参考にしています。
『タイプ論』(みすず書房)C.G.ユング著 林道義(翻訳)
『Lectures on Jung’s Typology』(Spring Publications) Marie-Louise von Franz著 “The Inferior Function”
マリー=ルイズ・フォン・フランツさんはユングの弟子であり、ユング研究所で教鞭をとっていた女性の心理学者です。
私はこの人のこの本を読んで、やっと『タイプ論』に書かれているユングの難解な説明が理解できました。