身を守る心理学

困難なことを先延ばしにする本当の理由【新説】

「現在バイアス」に異議あり

 

「現在バイアス」という言葉をご存知ですか?

これは最近流行りの行動経済学やマーケティングの本にもよく出てくる用語です。

 

でも、この「現在バイアス」という言葉、どうも使われ方がおかしい。

その説明を読んでいても、今ひとつ腑に落ちないものがある・・・。

「なぜだろう?」と考えてみて、結局、私は自分なりの新しい解釈にたどり着きました。

 

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心理学でいう「現在バイアス」論はヘンだぞ!

 

もし次の2つの選択肢から好きな方を選べと言われたら、あなたはどちらを選びますか?

(1)今日、1万円もらえる

(2)1年後、1万1000円もらえる

 

まず間違いなくあなたは(1)を選ぶことでしょう。

なぜなら1年後の1万1000円より今日の1万円の方がずっと魅力的だからです。

 

このように「今が大事!」と思えてしまう心理現象を認知心理学や行動経済学では「現在バイアス」と呼んでいます。

いわゆる「今がよければそれでいい」に近い考え方ですね。

 

 

現在バイアスを説明する例として有名なのが「マシュマロ実験」です。

 

これは4歳くらいの子供の目の前に1個のマシュマロを置き、

「すぐ食べてもいいけれど、15分間待てば、もう1個あげるよ」

と言って、その子供をモニターする実験です。

 

今すぐのマシュマロ1個と、15分後のマシュマロ2個

さあ、どちらを選ぶか?

 

 

このマシュマロ実験の結果はさておき、私が妙に思えることが1つあります。

どうもこの「現在バイアス」という理論、あっちこっちで拡大解釈されているような気がするのです。

 

 

たとえば次の例を考えてみてください。

 

アマゾンで「ためになる本」を見つけたので、とりあえずポチって購入。

そして届いた本を手に取ってみると500ページもあって、しかも重い。

 

そこで、とりあえずその本は「そのうち読むつもり」ということで本棚に直行となります。

それで差し当たって今日のところは雑誌など軽めのものを読んでおく・・・。

 

こうして本棚には「いつか読むつもり」の良書がズラリと並ぶことになるのですが、こういうふうに「ヘビーな課題」が先延ばしにされるケースまで「現在バイアス」と呼ばれているのです。

 

 

しかし、ちょっと待って欲しい。

 

先の「今日もらえる1万円」やマシュマロ実験のように、「待つのは嫌だ」というのは、言うなれば「欲求に負ける」という心理です。

これは例えば食欲とか性欲に勝てない・・・というのと同じようなもの。

 

でも「困難なことを先延ばしにする」というのは、この「欲求に負ける」というのとは無関係ではないでしょうか。

 

なぜかというと、例えば次のようなケースを考えてみましょう。

面倒な仕事を抱えている時に限って、ちょっとだけ昼寝をしたくなったり、あるいは耳掻き棒を出してきて耳掃除をしたくなったりすることって、ありませんか?

 

少なくとも僕の場合はしょっちゅうだよ

 

こういう場合、昼寝や耳掃除は欲望でも何でもなく、単なる時間稼ぎに過ぎません。

その時間稼ぎは別に「今」時点での欲求を満たすためにやっているわけではありません。

 

だからこういうのまで「現在バイアス」と呼ぶのは「現在バイアス」の趣旨に反するのではないか、と私は思うのです。

 

 

先延ばしにすることで心理的負担を軽減させる

 

そこで私は「困難なことを先延ばしにする」という習慣について、「現在バイアス」とはちょっと違う説明方法を考えてみました。

 

ちょっと名称が長いのですが、私は次のように命名しました。

時間的遠近法による心理的負担の平均化バイアス

 

 

これを噛み砕いて説明すると、次のような感じでしょうか。

 

近くにあるものは大きく見える。

遠くにあるものは小さく見える。

したがって、大きなものと小さなものが同じ大きさに見えるようにするには、小さなものを近くに、大きなものを遠くに並べればよい

 

 

その例として、次のような映画を使った実験を考えてみましょう。

(現在バイアスについて調べる同様の実験がすでに存在しますが、私の解釈はそれらとは違います)

 

ここにAグループとBグループの映画があります。

 

【Aグループ】

・『戦場のピアニスト』(2時間半)

・『シンドラーのリスト』(3時間以上)

いずれもユダヤ人に対するホロコーストを描いたシリアスな映画で、ともにアカデミー賞受賞作品。

 

【Bグループ】

・『アイアンマン』

・『スパイダーマン』

文字通り娯楽映画で気楽に観られる

 

「これらの映画を知ってはいるが、観たことはない」という人を集め、AとBから1作品ずつ選んで観てもらうことにするのです。

まずは今日1本め、明日2本めというように、2日に分けて観てもらうことにします。

そして、「どういう順番で何を観ますか?」と尋ねます。

あくまでも現時点での予定だけを聞きます。

 

この場合、おそらく大多数の人は

「今日はまずBグループの映画を観て、明日にAグループの映画を観ようと思っています」

と答えるのではないでしょうか。

 

なぜならBの映画は軽い気持ちで観ることができますが、Aの方はちょっと気合いを入れて真剣に観なくてはなりません。

Aは名作であるとともに大作でもあるため、観終わってから疲労が残るかもしれないし・・・。

 

ということで、多くの人は心理的負担の大きいAの作品を後回しにすると思うのです。

 

これが私の言う『時間的遠近法による心理的負担の平均化バイアス』です。

 

 

「困難なことは先延ばしにし、まずは昼寝をする」という場合、昼寝には少しばかり「罪の意識」があるくらいで、実際には困難でも何でもありません。

 

だからこそ、この「ちょっとした罪の意識」と「困難なこと」とを釣り合うくらいに平均化させるには、その「困難なこと」を見えなくなるくらい遠い未来に追いやってしまえばいい、という理屈になります。

 

そして実際、それは多くの人が経験していることです。

 

 

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困難なことの先延ばしを回避する方法

 

結局、人は困難な課題を未来の彼方に押しやり、実際より小さく見えるようにすることで「今の平安」を得ようとする傾向があるようです。

 

でも、やがて否応なくその困難な課題は目の前に迫ってきます。

その時、長い間、自分のイメージの中では小さく見えていた課題が意外にも大きかったことに気づきます。

 

そして今から始めようにも、時すでに遅し。

締切が間近に迫っていた・・・などということもあります。

 

まさに後悔先に立たずです。

 

 

さて、こういう困ったことにならないための対策は限られています。

 

まず1つめの対策としては、思い切って最初に困難な仕事から着手することです。

しかしそれでは簡単に終わる仕事もすべて後回しになってしまいます。

 

 

そこで2つめの対策として(おそらくこれしかないのですが)次のような作戦を立てます。

 

大きな困難を細かく分割し、各個撃破の要領で1つずつ終わらせていく。

それと同時並行で簡単な仕事もやっていく。

 

そうすることで今日の仕事も明日の仕事も、あさっての仕事も同じ量になります。

つまり現実的に仕事の負担は時間的に平均化されるわけです。

 

しかしこれには嬉しい特典が付いてきます。

困難な仕事というのはたいてい出だしの3分の1くらいの時期が一番大変です。

軌道に乗ってくれば、困難さは初めの頃よりどんどん軽減していくでしょう。

 

・・・となれば、心理的負担も(平均化どころか)後になるほど軽くなっていく、というわけです。

 

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