「愛着」についての理論を文字どおり「愛着理論」と言います。
英語だと次のように言います。
Attachment Theory
アタッチメント・セオリー
この愛着理論の中で「愛着障害」あるいは「愛着スタイル」という言葉が出てきます。
これはそのまま「障害」と「スタイル」の違いなのですが、これについてちゃんと解説されている記事はほとんど見かけません。
でも、実はここらへんが曖昧なために、「大人の愛着障害」が理解しづらいものになっているのです。
多くの人が見過ごしがちなポイントですが、本当は一番最初に押さえておくべき大切な内容です。
今回はこれらの用語の使い方についてわかりやすく説明します。
愛着障害は本当に「障害」なのか?
愛着障害というのは英語の次の言葉の日本語訳です
Attachment Disorder
アタッチメント・ディスオーダー
このDisorderという言葉は本来、
「混乱、無秩序」という意味です。
あえて医学的な訳し方をしたとしても
「不調」
といった程度の意味です。
何が言いたいかというと、「障害」という言い方は的を射ていないというか、ちょっと大げさではないか、ということなのです。
たとえば「発達障害」という名称についても、最近、異論をとなえる人がいます。
「障害ではなく、単に発達のようすに個人差があるだけだ」と。
だからそういう人は「発達でこぼこ」などと呼んだりしています。
それと同じ事で、私は「愛着障害」という言葉についても、そのうち異論が飛び出すのではないか・・・と思っています。
もしかしたら10年後くらいには別の呼び方になっているかもしれません。
このサイトでは一応、日本での慣例にしたがって「愛着障害」という言葉を使っています。
でも、心の片すみではこの言葉に少しだけ違和感を持っておく・・・ということも必要だと思います。
本来、「愛着障害」は児童精神医学における用語
この愛着障害という言葉については、もう1つ知っておくべきことがあります。
そもそも愛着障害という言葉が精神科医の間で使われる場合、それは児童精神医学の分野だということです。
なぜなら「愛着障害の診断基準」というものがあって、その診断基準そのものが「子供が対象」だからです。
その「愛着障害の診断基準」には2種類あります。
それは以下の2つです。
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-Ⅳ-TR)
(幼児期または小児期早期の反応性愛着障害)
・抑制型: 過度に抑制された反応
・脱抑制型: 拡散した愛着、無分別な社交性
ICD-10 における分類
・小児期の反応性愛着障害
・小児期の脱抑制性愛着障害
それぞれの細かい内容についてはここで説明しませんが、ご覧の通り、精神科医が扱う愛着障害は「幼児期あるいは小児期」に限定されていることがわかりますよね。
そういった愛着の問題を抱える子供が精神科医のところへ治療を受けに行くとしても、だいたいは小学生のうちではないでしょうか。
つまり大人の愛着障害については医学上、明確な診断基準がないということです。
それゆえ、精神科医にとっても扱いは困難なものとなってしまいます。
私は複数の精神科医の著書を読んでみましたが、大人の愛着障害の治療については明確なエビデンスのある治療法はまだ確立されていないように見受けられます。
その一方で、心理カウンセラーやヒーラーを名のる人たちが大人の愛着障害を取り扱っているというのが現状です。
中にはスピリチュアル・カウンセラーのような人までいます。
こうした人たちのところへ相談に行く場合は、眉に少し唾を付けておいた方がいいかもしれません。
愛着障害と愛着スタイルという言葉の違い
一方、アメリカなど海外では大人の愛着障害をどうとらえているのでしょうか。
実を言うと、海外では大人については「愛着障害」、つまり
Attachment Disorder
という言葉はあまり使われないような気がします。
むしろ「愛着スタイル」、すなわち
Attachment Style
アタッチメント・スタイル
という言葉で愛略理論を語る人の方が多いように感じます。
つまり個人のパーソナリティー、あるいは対人スキル上のテーマとして扱われる傾向があるのです。
だからもしかすると、大人の愛着の問題を日本ほどには「障害扱い」していないのかも知れません。
このように考えると、これからは日本でも大人については「愛着スタイル」という表現を積極的に使っていった方がよさそうです。
前回の記事で、私は大人が引きずりがちな「愛着スタイル」として、次の4つを解説しました。
- 安心型
- 不安型
- 見下し回避型
- 恐がり回避型
※前回の記事でも述べましたが、これらの表現はこのサイト独自のものです。
この中で、少なくとも「安心型」に関しては「障害」とは言えません。
こうしたことを考えても、上の4つのタイプを並べて「4つの愛着障害」のように表現するのは間違っているように思われます。
ですから今後、このサイトでは
上の4つのタイプを並べて語る場合には「愛着スタイル」
特に子供時代から引きずっている愛着障害を語る場合はそのまま「愛着障害」
という言い方をしたいと考えています。
とは言っても、言葉の使い方はケースバイケースですよね・・・。
でも一応、「愛着障害」と「愛着スタイル」にはこういう違いがあるんだ、ということだけ押さえておいていただければ、今のところOKです。