トラウマ

人の顔はボヤーッと覚えておいた方が記憶に残る

人の顔を覚えるコツ

 

何かの事件で犯人を目撃した場合、警官から

「犯人はどんな人相だったか?」

と聞かれます。

ところがこの「記憶を言語化する」という方法が冤罪を生むケースも多いそうです。

今回はその原因を心理学的に考えてみました。

 

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コトバが記憶を風化させる言語隠蔽効果

 

認知心理学などの分野で言語隠蔽(いんぺい)効果と呼ばれる現象があります。

 

これは簡単に言えば、

感覚的な物事を言語化して覚えようとすると、よけい忘れてしまう

という現象です。

 

 

また後で詳しく述べますが、この言語隠蔽効果を計算に入れると、たとえば犯罪捜査における目撃証言の信憑性を考える場合に役立ったりするものです。

 

ところが最近、私はこの言語隠蔽効果について書かれた本を読んでいて、

「これってトラウマ反応におけるフラッシュバックの解消に役立つじゃん!」

と思ったのです。

 

そこで今回、この言語隠蔽効果(それにしても難しい用語ですね・・・)の全体像について超わかりやすく説明するとともに、それとトラウマ解消との関係性をまとめてみることにしました。

 

 

人の顔はボヤーッと覚えておいた方が忘れない

 

ジョナサン・スクーラー博士はカリフォルニア大学サンタバーバラ校で教鞭を執る認知心理学の専門家です。

 

彼は次のような実験をしました。

何人もの実験参加者を集めて、彼らを2つのグループに分ける。

そして全員に犯罪が行われているビデオを見せるのだが、そのビデオには犯人の顔がはっきりと映っている。

ビデオを観終わった後、一方のグループにだけ、5分間にわたって犯人の顔の特徴を文章に克明に書かせる。

最後に犯人を含む何人もの顔写真を見せて、誰が犯人かを1人ずつ答えてもらう。

 

さて、この実験では犯人の顔を言語化したグループと、していないグループとがあります。

果たしてどちらのグループの方が参加者の方がより多く犯人の顔を当てられたでしょうか?

 

常識的に考えれば、犯人の顔の特徴を言語化したグループの方が記憶が整理されているわけですから、犯人の顔を当てられた参加者も多いはず・・・。

 

ところが結果は逆で、犯人の顔の特徴を言語化しなかったグループの参加者の方がより多く犯人の顔を当てられたそうです。

 

 

つまり本来、「顔の特徴」というきわめてイメージ的なものをわざわざ言葉にすることによって、そのイメージの記憶が薄らいでいってしまうということです。

 

これをジョナサン・スクーラー博士は

Verbal Overshadowing Effect

(言語隠蔽効果)

と名付けました。

 

そこで、この効果を逆に利用するなら、

人の顔を覚える場合は頭の中でボヤーッとイメージを持っておくだけで十分である

と言えそうです。

 

それなのに、わざわざ「髪はロングのストレートで、目は二重で・・・」というふうに言語化して覚えようとするから逆に忘れてしまうのです。

 

これを逆に考えると、警官から犯人の顔を聞かれた時、調子にのって言葉で説明すればするほど、その描写は本当の犯人像から遠ざかっている可能性がある、ということです。

 

 

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せっかくの美味をコトバで説明する必要はない

 

上の実験は視覚的な記憶の例ですが、他にも味覚を使った実験があります。

これはワインの味を識別してもらう実験です。

 

「ワイン通というほどではないが、ワインは好きでちょくちょく飲んでいる」という実験参加者たちを集め、ある銘柄のワインを飲んでもらいます。

その後に4種類のワインを飲み比べてもらうのですが、その中の1つは最初に飲んだワインです。

それで、どのワインが最初に飲んだワインだったかを当てさせます。

 

この実験でもやはり参加者は次の2つのグループに分けられました。

・一方は、最初に飲んだワインの特徴を4分間かけて克明に文章にしてもらった後、飲み比べ実験をやってもらったグループ

・もう一方は、最初のワインを飲んだ後、4分間、ただクロスワードパズルをさせられた後で飲み比べ実験をやってもらったグループ。

 

 

この「ワインの味を当てる」実験はもともと難しいので、いずれのグループも成績はさほどよくなかったようです。

しかしここで面白いのは、この実験で言語化したグループの参加者のほぼ全員が最初に飲んだワインを当てられなかったそうです。

 

この実験でもまた言語隠蔽効果が現れたということですね。

 

 

ちなみにこの実験は

・めったにワインを飲まない人たち

・ワイン通、またはソムリエ級の人たち

に対しても同様に行われ、その結果は少し違ったものとなりました。

 

まず「めったにワインは飲まない人たち」の場合、言語化したグループの方が成績はちょっとだけよくなったそうです。

 

一方、「ワイン通、またはソムリエ級の人たち」の場合、さすがに他のグループより成績はほんの少しよかったそうですが、言語化したか、しなかったかで差は出なかったそうです。

 

 

さて、ここでふと気づいたことがあります。

おいしいものを食べたり、飲んだりした場合、私たちに必要な言葉は

「おいしいーっ!」

だけで十分だということです。

 

グルメ番組で出演者たちが料理の味をこと細かに説明しますよね。

あれは番組だから必要な演出なのですが、実生活ではやらない方がいい、と言えそうです。

 

 

逆に忘れたい嫌な感覚はどんどん言語化しよう

 

ここからは最初に少し述べたトラウマ反応についての話です。

 

トラウマ反応の代表例、フラッシュバックの解消法として私は次のような方法をお勧めしています。

何度もフラッシュバックしてくる嫌な思い出をあえて克明に文章化してみる。

 

▼これについては以前にも記事を書いていますので、よかったら参考にしてください。

嫌な記憶≠トラウマ
専門家もカン違いしているトラウマの対処法 一般的に「嫌な記憶=トラウマ」だと考えられています。 だからトラウマを解消するには、その「嫌な記憶」を消せばよい・・・と。...

 

この方法は私に限らず、提唱している人はたくさんいます。

 

そう言えば中田敦彦さんがどの動画でだったかおっしゃっていたのですが、彼は嫌なことがあるとそれを全部文章にワーッと書き起こすそうです。

それを誰に見せるわけでもないけれど、そうやって自分の中からいったん出してしまうと気分がラクになる、と言っていました。

 

また、このトラウマの文章化のことを「曝露(ばくろ)療法」の一種だという専門家もいます。

 

 

さて、

「文章化すると記憶が薄れる」

という現象。

これをトラウマ解消の手段として考えると、発達心理学などの分野での扱いとなります。

 

一方、これを犯罪捜査における目撃証言の信憑性の研究として考えると、認知心理学での扱いとなります。

 

同じ心理学でもさらにその専門領域が異なると、関連していることに気づかないものです。

 

なんだかもったいないな・・・と思ったしだいです。

 

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